結論:特別支給の老齢厚生年金を受けている方が障害の状態にあるとき、請求により定額部分が加わる場合があります。ただし、障害年金とは同時に受け取れません
老齢厚生年金の「障害者特例」は、障害年金とは別の制度です。65歳になる前に受け取る「特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)」を受けている方が対象です。
一定の障害の状態にあり、厚生年金の被保険者でないときに、ご本人が請求すると、報酬比例部分に加えて定額部分も受け取れるようになります。請求をしないと、この特例は適用されません。
一方で、65歳になる前は、老齢の年金と障害の年金は、原則としてどちらか一方を選ぶ仕組みです。障害者特例を使った老齢厚生年金と障害年金を、あわせて受け取れるわけではありません。
どちらが有利かは、加入期間、報酬の額、障害の等級、ほかの収入などによって人それぞれです。受給をお約束するものではありません。
この記事は、特別支給の老齢厚生年金を受けている(または受けられる年齢に近い)方で、病気やけがによる障害がある方、そのご家族のために書きました。障害者特例の内容と、障害年金との違い・選び方を説明します。
障害者特例とは、何を変える制度か
特別支給の老齢厚生年金は、老齢厚生年金の受給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられるときの、経過措置です。年金は「報酬比例部分」と「定額部分」に分かれ、生年月日によって、それぞれの開始年齢が違います。
報酬比例部分は、加入期間と過去の報酬に応じた部分です。定額部分は、加入期間の月数に応じた部分です。
昭和24年4月2日以後生まれの男性と、昭和29年4月2日以後生まれの女性(会社員として厚生年金に加入していた方。共済組合等の加入期間は男性と同じ基準)は、原則として報酬比例部分だけが先に支給され、定額部分は支給されません。
ただし、次の3つの場合は、定額部分も受け取れる特例があります(日本年金機構「特別支給の老齢厚生年金」)。
- 長期加入者の特例:厚生年金の被保険者期間が44年以上あり、退職などで被保険者でなくなったとき(厚生年金保険法附則第9条の3)
- 障害者の特例:障害の状態にあり、被保険者でないときに、本人が請求した場合(同法附則第9条の2)。この記事の主題です
- 坑内員・船員の特例:坑内員または船員であった期間が15年以上あるとき(同法附則第9条の4)
長期加入者の特例には、障害の要件はありません。障害者特例とは別の制度ですので、混同しないようご注意ください。
誰が対象になるか
日本年金機構のページによると、障害者特例を請求できるのは、次の3つをすべて満たす方です。
- 特別支給の老齢厚生年金を受け取る権利(受給権)があること
- 厚生年金保険法に定める3級以上の障害の状態にあること
- 厚生年金保険の被保険者資格を喪失していること(在職中で被保険者である間は、対象になりません)
特別支給の老齢厚生年金の対象は、会社員として厚生年金に加入していた男性は昭和36年4月1日以前、女性は昭和41年4月1日以前に生まれた方です。公務員などの共済組合等の加入期間による年金は、女性も男性と同じ昭和36年4月1日以前が基準です。
どちらも、厚生年金などに1年以上加入していること、老齢基礎年金の受給資格期間が10年以上あることなどが要件です。
令和8年10月時点では、会社員だった男性で対象の生年月日の方は、すでに全員が65歳に達しています。新たに特例の対象になる可能性があるのは、主として、会社員として厚生年金に加入していた女性で、昭和41年4月1日以前に生まれ、65歳に達する前の方です。
なお、警察官・消防職員の一部(特定警察職員等)など、生年月日の基準が違う方もいます。ご自身が対象かどうかは、年金事務所または街角の年金相談センターで確認してください。
法律では、障害の状態を「傷病により障害等級に該当する程度の障害の状態」としています。障害等級は、1級・2級・3級です(厚生年金保険法第47条第2項)。
その傷病が治らない場合(症状が固定し、治療の効果が期待できない状態にある場合を除きます)は、その傷病の初診日から1年6か月を経過した日以後に、その状態にあることが必要です(同法附則第9条の2第1項)。
初診日とは、障害の原因となった病気で、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日です。診断名がついた日とは限りません。
障害年金の3級の定義は、障害認定基準(第2の1(3))にあります。障害の状態に当たるかどうかは、診断書などをもとに日本年金機構が判断します。
請求の方法と、いつから受け取れるか
請求先は、お近くの年金事務所または街角の年金相談センターです。使う書類は「障害者特例・繰上げ調整額請求書」です。電子申請(e-Gov)もできます。
添付する書類は、日本年金機構のページによると、次のとおりです。
- 医師の診断書:障害の状態を記入したもの。障害年金を受けている方は不要です。ただし、障害年金の受給権があり、支給が止まっている方は必要です。
- 配偶者や子がいる場合に上乗せされる加給年金額の対象者がいる場合:戸籍、住民票、収入が分かる書類などが必要です(特別支給の老齢厚生年金の決定時に提出済みなら不要です)。
診断書の様式は、機構のページで確認してください。診察のときに、日ごろの状態を具体的に伝えてください。診断書に何を書くかは医師が判断し、障害の状態に当たるかどうかは日本年金機構が認定します。
支給は、請求が認められると、請求した月の翌月分からです(厚生年金保険法附則第9条の2第2項)。
ただし、障害年金を受けていて被保険者でない方などは、請求より前の一定の日(たとえば、障害年金の受給権を得た日など)に請求があったものとみなされます。この取扱いは、平成26年4月1日以後の請求が対象です。平成26年4月1日より前にはさかのぼりません(日本年金機構)。
条件や日付は人によって違うため、請求前に年金事務所に確認してください。
定額部分が加わると、いくらになるか
定額部分は被保険者期間の月数に応じて決まり、上限があります。報酬比例部分は、加入期間と過去の報酬で決まります。
令和8年度の具体的な金額は、一人ひとり違うため、この記事では計算しません。年金額の計算の仕組みは、日本年金機構「老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額」で確認できます。実際の金額は、年金事務所でお問い合わせください。
配偶者や子がいる場合に加算される加給年金額も、関係することがあります。加給年金額は、厚生年金の被保険者期間が240月以上あるなど、一定の条件があります。
障害者特例で定額部分が支給される場合に、加給年金額の対象になるかどうかは、機構のページでご確認ください。
特例が止まる場合
障害者特例で定額部分が支給されるようになったあとでも、次の場合は、定額部分(加給年金額を含みます)の支払いが止まります(日本年金機構)。
- 厚生年金に再び加入して、被保険者になったとき
- 障害の状態に当たらなくなったとき(この場合は「年金受給権者障害者特例不該当届(繰上げ調整額停止届)」の提出が必要です)
つまり、障害者特例は、退職して被保険者でなくなっていること、障害の状態が続いていることが、続けて必要な制度です。働き続ける予定がある方は、特例を請求する前に、この点を年金事務所で確認してください。
障害年金との違い
障害年金(障害基礎年金・障害厚生年金)と、老齢厚生年金の障害者特例は、別の制度です。主な違いは次のとおりです。
- 何の制度か:障害年金は、病気やけがで生活や仕事が制限されるときの年金です。初診日の加入制度や、保険料の納付の条件(納付要件。納めた期間と免除された期間をあわせて数えます)などを満たす必要があります。障害者特例は、老齢厚生年金(特別支給)の額を増やす特例です。
- 在職中の扱い:障害者特例は、被保険者でないことが要件です。障害年金は、働いていても請求できる場合があります。くわしくは働いていても障害年金はもらえる?をご覧ください。
- 収入の制限:障害年金には、20歳前の傷病による障害基礎年金を除いて、収入による制限はありません(国民年金法第36条の3は20歳前障害に限ります)。20歳前障害は20歳前に初診日がある障害年金をご覧ください。
- 3級:障害厚生年金には3級があり、令和8年度の最低保障は635,500円です。障害基礎年金は1級と2級だけで、令和8年度の2級は847,300円です。障害者特例の対象になる障害の状態は、1級から3級に当たる程度です。
- 更新:障害年金には、更新(診断書の再提出)がある認定(有期認定)の方がいます。くわしくは障害年金の有期認定と永久認定の違いをご覧ください。
どちらを選ぶか:65歳になる前は、障害年金と特別支給の老齢厚生年金を同時に受け取れません
支給の理由が違う年金(老齢・障害・遺族)を2つ以上受けられるようになったときは、原則として、どれか1つを選びます。65歳になる前は、この原則どおりで、障害年金と特別支給の老齢厚生年金を同時に受け取ることはできません。
選ぶときは「年金受給選択申出書」を提出します(日本年金機構「年金の併給または選択」)。障害者特例を使っても、これは変わりません。65歳以後は、障害基礎年金と老齢厚生年金を組み合わせるなど、特例的に選べる組み合わせが増えます。
選ぶときは、次の点を比べてください。
- 年金の額:障害年金(障害厚生年金3級・2級など)の額と、特別支給の老齢厚生年金の額を比べます。老齢の額は、報酬比例部分です。障害者特例を請求した場合は、定額部分も加えた額です。どちらが多いかは人によって違います。
- 税金:障害年金には所得税・住民税がかかりませんが、老齢厚生年金は課税の対象です(国民年金法第25条、厚生年金保険法第41条第2項)。額面だけでなく、手取りで比べることが大切です。
- 働き方:老齢厚生年金は、働いて被保険者になっているときは、報酬との調整(在職老齢年金)があります。障害者特例は、被保険者になると定額部分が止まります。障害年金には、働いて得る報酬による調整はありません(20歳前の傷病による障害基礎年金には、所得による支給停止があります。国民年金法第36条の3)。
- 将来の見通し:65歳以後の組み合わせ、更新の有無、傷病の状態の変化も、あわせて考えます。
一度選んだ年金は、あとから将来に向かって選び直すことができます(厚生年金保険法第38条第2項・第4項、国民年金法第20条第2項・第4項)。過去にさかのぼって選び直すことはできません。
選び直したときの影響は、年金事務所で必ず確認してください。
繰上げ受給との関係
老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)の繰上げ請求をすると、繰上げ請求をした日以後は、事後重症などによる障害基礎年金・障害厚生年金を請求できなくなります。
事後重症とは、障害認定日(障害の程度を判断する基準になる日)より後に、等級に当たる状態になったときの請求(事後重症請求)のことです。
また、老齢厚生年金の繰上げ請求をすると、障害者特例(と長期加入者の特例)を受けられなくなります(日本年金機構「年金の繰上げ受給」)。
治療中の病気やけががある方は、繰上げ請求の前に、障害年金と障害者特例のどちらも検討してください。
請求書の名称にある「繰上げ調整額」は、特別支給の老齢厚生年金を受けられる年齢より前に老齢厚生年金を繰上げ請求した方のうち、繰上げ請求のときに厚生年金の被保険者でなく障害の状態にある方(または厚生年金の加入期間が44年以上の方)に、定額部分をもとに計算して加算される額です(厚生年金保険法附則第13条の5第1項。計算式は機構のページにあります)。
当センターの事例とご相談
特別支給の老齢厚生年金と、障害年金との関係が問題になった、当センターの事例とQ&Aです。年金額は、決定当時の年度の額です。
- 60代の女性が、右変形性膝関節症による人工関節で請求しました。特別支給の老齢厚生年金(年25万円)を受けていました。障害年金と特別支給の老齢厚生年金は両方受け取れないことを説明して申請し、障害厚生年金3級(年間約58万円)が決まりました。ページには、障害者特例の請求書を作成する予定だったが必要なかった、と書かれています(事例)。
- 60代の男性が、拡張型心筋症で請求しました。認定日請求が認められて障害厚生年金3級が決まりましたが、事後重症は不支給でした。ページには、特別支給の老齢厚生年金を受給選択するために、「年金受給選択申出書」と「年金受給権者障害者特例不該当届(繰上げ調整額停止届)」を提出した、と書かれています(事例)。
- 60代の男性が、末期腎不全による人工透析で請求しました。就労を続けていたため、特別支給の老齢厚生年金は在職老齢年金の調整が入り、実際の受給額は年額約20万円でした。障害厚生年金2級が決まり、障害年金を選択しました(事例)。
- 60歳で両足に人工関節を入れた方の面談で、61歳から特別支給の老齢厚生年金が受けられる予定でした。障害年金は3級に当たる可能性がありましたが、特別支給の老齢厚生年金のほうが金額が高くなる可能性がありました。あと3か月で受け取れる年齢でもあったため、当センターに依頼するメリットはないと判断し、ご自身で手続きされるほうが手数料もかからないとお答えした、と書かれています(Q&A)。
事例は、受給をお約束するものではありません。結果は、年齢、加入期間、報酬、障害の状態、診断書の内容などによって変わります。
愛媛・松山障害年金相談センター(運営:社会保険労務士法人あいパートナーズ)は、四国全域の方を対象に、障害年金の申請をサポートしています。初回の相談は無料です。
電話、メール、LINE、Zoomでのご相談に加えて、LINE・郵送・メールだけで申請を進めることもできます。入院中の方やご家族だけでのご相談も、ご本人の同意があれば承ります。
当センターは、障害年金の申請をサポートしています。障害年金の申請とあわせて障害者特例の書類が必要になるかどうかは、ご依頼いただいた際にご案内します。障害者特例の請求そのものについては、お近くの年金事務所または街角の年金相談センターでご確認ください。
請求の流れ(障害年金の申請を検討する場合)
障害年金の申請は、次の順で進みます。
- 初診日と、年金制度の加入状況を確認する
- 初診日を証明する
- 診断書を依頼する
- 申立書を作成する
- 年金請求書を提出する
初診日は、障害の原因となった傷病について、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日です。診断名がついた日とは限りません。健康診断の日は、原則として初診日になりません(平成27年9月28日 年管管発0928第6号)。
初診日を証明するための、医療機関が書く書類が受診状況等証明書です。診断書は障害年金の診断書を、申立書は病歴・就労状況等申立書をご覧ください。
提出先は、初診日に加入していた制度で決まります(日本年金機構「障害基礎年金を受けられるとき」「障害厚生年金を受けられるとき」)。
- 次の方は、お住まいの市区町村の窓口です。初診日に国民年金の第1号被保険者だった方。初診日が20歳前で厚生年金に加入していなかった方。初診日が60歳以上65歳未満で、その日に日本国内に住んでいて年金制度に加入していなかった方(老齢基礎年金を繰上げ受給している方を除きます)。
- 初診日に厚生年金に加入していた方と、国民年金の第3号被保険者だった方は、年金事務所または街角の年金相談センターです。
- 初診日が共済組合の加入期間にある方は、共済組合等が窓口になります。
年金請求書を提出してから、決定の通知と年金証書が届くまでは、3か月程度が目安です(日本年金機構「障害年金ガイド」令和8年度版)。認定審査を複数回行う場合は、4か月が目安とされています(令和8年4月以降。日本年金機構の運営評議会資料65-07、厚生労働省年金局「障害年金における認定調書の取扱いについて」)。
障害の状態を詳しく確認する必要がある場合などは、通常より時間がかかることがあります。
不支給になったときや、更新で結果が変わったときの手続きは、不支給から3か月以内の手続きと更新で支給停止・等級が下がったときをご覧ください。審査請求・再審査請求は、当センターで申請された方に限ってお受けしています。
ご相談は、当センターへ
料金は、受給後報酬型です。受給できた場合に、受給後報酬をいただきます。受給できなかった場合は、受給後報酬はいただきません。
ただし、事務手数料(2.2万円・税込)は、委託後1週間以内にお支払いいただき、結果にかかわらず返金できません。診断書の作成料は実費です。くわしくは、サポート料金のページをご覧ください。
受給をお約束するものではありません。
生活保護を受けている方のご相談はお受けしておりません。65歳以上の方のご相談も、原則としてお受けしておりません(老齢年金を受け取っておらず、障害年金の受給条件に当てはまる場合には、お受けすることもあります)。くわしくは、65歳以上の方の障害年金:当センターでお手伝いできないこと、ご自身で確認していただきたいこと、生活保護を受けている方は障害年金をもらえる?受け取れる場合の注意点と、当センターでお手伝いできないことをご覧ください。
なお、特別支給の老齢厚生年金と障害者特例は、65歳になる前の制度です。
電話:089-907-3797(平日9:00〜18:00)。LINEとメールは、24時間受け付けています。無料受給判定で、受け取れる可能性を、1分で確認することもできます。
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制度の内容は、2026年10月時点の日本年金機構などの公開情報にもとづいています。法改正などで変わることがあります。
執筆・監修:社会保険労務士法人あいパートナーズ 代表 社会保険労務士 岩本浩一






















