結論:高次脳機能障害でも、障害年金を受け取れることがあります
高次脳機能障害は、障害年金の対象になる病気です。ただし、病名があるだけで受け取れるわけではありません。高次脳機能障害は、脳卒中(脳出血・脳梗塞・くも膜下出血)や、交通事故などによる頭のけがで、脳が傷ついたあとに、記憶障害や注意障害、感情や行動のコントロールの難しさなどが残る状態です。外見からは分かりにくく、会話が成り立っているように見えても、日常生活では大きな援助が必要なことがあります。障害年金では、そうした生活の実態が、どれだけ診断書と申立書に伝わるかが、結果を左右します。
受け取るための条件は、大きく3つです。初診日(脳の病気やけがで、初めて医師の診療を受けた日)に、国民年金か厚生年金に加入していたこと。初診日の前日までの保険料の納付状況が要件を満たしていること。そして、障害認定日(原則として初診日から1年6か月後)か、その後65歳になるまでに、障害の状態が等級に当たっていることです(後者の場合の請求は、65歳の誕生日の前々日までに行う必要があります)。
この記事では、高次脳機能障害で障害年金を考えているご本人やご家族のために、受け取れるかどうかの考え方、準備するもの、注意点を説明します。
高次脳機能障害で障害年金を受け取れるのは、どんなときか
条件の1つめは、初診日に年金制度へ加入していたことです(20歳前や、日本に住んでいる60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間に初診日がある場合を除きます)。会社員や公務員として厚生年金に加入していた期間に初診日があれば、1級・2級では障害基礎年金に障害厚生年金が上乗せされ、3級では障害厚生年金だけが支給されます。自営業やフリーランス、学生などで国民年金に加入していた期間に初診日があれば、障害基礎年金(1級・2級)の対象になります。
2つめは、保険料の納付です。初診日がある月の前々月までの加入期間のうち、保険料を納めた期間と免除された期間をあわせて3分の2以上あることが原則です(初診日の前日で判定します)。令和18年3月末までに初診日があって、初診日に65歳未満であれば、初診日がある月の前々月までの1年間に未納がなければよい、という特例もあります。
3つめは、障害の程度です。高次脳機能障害の場合は、記憶や注意、判断などの働きの障害によって、日常生活や仕事でどのくらい援助が必要かが見られます。
初診日や納付要件のくわしい説明は、100の質問の「初診日とは何ですか?」(Q13)と「障害年金はどんな人がもらえますか?」(Q2)をご覧ください。
高次脳機能障害は、どのように等級が判断されるのか
高次脳機能障害は、障害年金の認定基準では「精神の障害」のうち「症状性を含む器質性精神障害」として見られます。認定基準は、高次脳機能障害を、脳の損傷による認知の障害全般で、日常生活や社会生活に制約があるもの、としています。主な症状として、失語・失行・失認のほか、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などが挙げられています。リハビリなどで状態がよくなることもあるため、治療や症状の経過も考慮されます。なお、失語(言葉の障害)は、言語機能の障害として別に認定されます。
等級の目安は、1級が「高度の認知障害、高度の人格変化、その他の高度の精神神経症状が著明なため、常時の援助が必要なもの」、2級が「認知障害、人格変化、その他の精神神経症状が著明なため、日常生活が著しい制限を受けるもの」、3級が「認知障害、人格変化は著しくないが、その他の精神神経症状があり、労働が制限を受けるもの」または「認知障害のため、労働が著しい制限を受けるもの」です(3級は障害厚生年金だけです)。
高次脳機能障害は、見た目では障害が分かりにくいため、診断書に書かれる内容と、日常生活の実際の様子が離れてしまうことがあります。当センターの事例には、一見すると会話が成り立つように感じられても、10分前のことを忘れる、メモをとってもメモの存在を忘れる、人に言われたことを何も覚えていない、といった様子から、一人では生活が成り立たないことを、申立書で具体的に伝えて、障害厚生年金2級が決まった事例があります。
等級の決まり方は、100の質問の「障害年金の等級(1級・2級・3級)はどう決まりますか?」(Q4)をご覧ください。
ご家族の聞き取りが、申立書の中心になります
高次脳機能障害では、ご本人が、自分の困りごとを自覚していなかったり、覚えていなかったりすることがあります。そのため、病歴・就労状況等申立書には、一緒に暮らすご家族からの聞き取りが大切になります。
当センターの事例では、ご家族から、次のようなことを聞き取って、申立書に書きました。事故のあと復職したものの、同僚とけんかが絶えず、人格が変わってしまったこと。記憶が定着せず仕事にならず、退職することになったこと。伝えたことを何も覚えていないこと、インターネットで買い物をしても覚えていないこと、お菓子があればあるだけ制限なく食べてしまうこと。移動時の危険、着替えや入浴の介助の状況、記憶障害による生活上の困難、一人で外出できない状況。2級が決まった事例や3級が決まった事例で、こうした聞き取りを申立書に書いています。
当センターでは、診断書を書いてもらうときにも、日ごろの様子をご家族からメモにして医師に渡しておくことをお勧めしています。
脳卒中・事故のあとの手続きは、順番が大切です
高次脳機能障害の多くは、脳出血や交通事故などの、突然の発症で始まります。障害年金の申請では、発症直後に運ばれた病院が初診日になることが多く、初診日からの経過と、障害認定日の考え方を、早めに確認しておくことが大切です。
障害認定日は、原則として初診日から1年6か月を過ぎた日です。ただし、脳出血や脳梗塞などで手足の機能障害が残った場合は、初診日から6か月を過ぎた日以後に、医学的にそれ以上の機能回復がほとんど望めないと認められれば、その日が障害認定日になることがあります。この扱いは手足の機能障害についてのもので、高次脳機能障害(精神の障害)は、原則どおり1年6か月を過ぎた日で見られます。
当センターの事例には、脳出血で、肢体の障害は、初診日から6か月を過ぎた時点で症状が固定していたとして、その日を認定日として遡及請求し、精神の障害(記憶障害)は、原則どおり1年6か月を過ぎた日を認定日として、障害厚生年金3級が決まった事例があります。同じ脳出血の後遺症でも、障害の種類によって、認定日が異なる場合があります。
初診日が、はっきりしない場合もあります
高次脳機能障害では、事故や病気の経過が複雑で、初診日がどこになるか迷うことがあります。初診日は、労災かどうかに関係なく、原因の病気やけがで初めて医師の診療を受けた日です。当センターの事例では、次のようなものがありました。
薬品を吸入した影響で高次脳機能障害になり、労災を申請中で、初診日が分からない状態だった事例では、症状が出て最初に受診した内科、皮膚科、大学病院の皮膚科、精神科の順に受診していました。現在の主治医に初診日の見解を聞いたところ、皮膚疾患と現在の高次脳機能障害との関わりは言えないということで、精神科を初診日として申請しました。申立書には最初の病院から書き、初診日の証明も内科と精神科の2通を提出して、結果として2級が決まりました。
脳の手術の後遺症で、左側が見えにくくなる半盲と、高次脳機能障害が残った事例では、高次脳機能障害は、担当医から手術の事故で発症したとは言い切れないとの見解があり、脳腫瘍が見つかった時を初診日にしました(半盲は手術日を初診日にしました)。国民年金に加入していた時期の初診日だったため、2級以上に当たらなければ受け取れない状況でしたが、半盲と高次脳機能障害を合わせて、障害基礎年金2級が決まりました。
くわしくは、100の質問の「初診日が分からないときはどうすればよいですか?」(Q26)をご覧ください。
麻痺や視野の障害などがあるときは、合わせて判断されます
高次脳機能障害は、手足の麻痺、視野が欠ける、話すことの障害などと一緒に残ることがあります。障害の種類が違う場合は、それぞれの診断書を出して、障害年金の等級が判断されます。
手足の麻痺や視野の障害と、高次脳機能障害のように、障害の種類が違う場合は、それぞれの診断書で程度を見たうえで、「併合認定」という方法で1つの等級にまとめられます。合わせても、必ず等級が上がるわけではありません。一方、高次脳機能障害と、うつ病などほかの精神の病気が重なっている場合は、併合ではなく、症状をあわせて総合的に判断されます。
当センターの事例には、脳出血の後遺症で、単独では3級にとどまる可能性もあったため、肢体の障害と高次脳機能障害を併せて申請し、併合認定で障害厚生年金2級が決まった事例があります。左側が見えにくくなる半盲と高次脳機能障害を合わせて、障害基礎年金2級が決まった事例もあります。障害年金では、診断書を一つだけでなく、複数出して申請することができます。
交通事故・労災・傷病手当金との関係
高次脳機能障害は、交通事故や、仕事中の事故・病気が原因になることがあります。その場合は、損害賠償や労災保険の給付と、障害年金との調整が出てきます。
交通事故など、ほかの人の行為が原因の障害で、相手から損害賠償を受けた場合は、賠償のうち生活の補償にあたる額に応じて、障害年金が一定期間止まります。止まる期間は、平成27年10月1日以降の事故では、事故が起きた月の翌月から数えて最長36か月です。
仕事中や通勤中の事故などで、同じ原因で労災保険の年金(障害(補償)等年金)も受ける場合は、障害年金は全額支給され、労災の年金のほうが減額されます。
同じ病気・けがで傷病手当金と障害厚生年金を受けられる期間が重なると、傷病手当金は原則として支給されません。障害厚生年金の額(あわせて受ける障害基礎年金を含みます)を360で割った日額が、傷病手当金の日額より少ないときは、差額が支給されます。障害年金がさかのぼって決まると、受け取った傷病手当金の返還を求められることがあります。
当センターの事例には、交通事故の後遺症で、損害賠償の関係の書類も提出した事例があります。傷病手当金を受けていた方が、傷病手当金が終わるのを待っていたところ、労災申請に切り替えるとのことだったので、すぐに手続きをした事例もあります。事故や労災が関わる場合は、早めにご相談ください。
働いていても、受け取れますか
働いていることだけを理由に、対象外になるわけではありません。精神の障害では、仕事の種類や内容、職場での配慮、支援の状況などがあわせて見られます。当センターの事例には、以前と同じ勤務先で働いていて、診断書を書いてもらうのが難しいと言われたものの、できる仕事は簡単なことで、障害者雇用として働かせてもらっていることを伝えて、診断書を書いてもらい、障害厚生年金2級が決まった事例があります。
くわしくは、100の質問の「働いていると障害年金はもらえませんか?」(Q53)と「フルタイムで働いていても障害年金はもらえますか?」(Q54)をご覧ください。
診断書は、何科の医師に、どう書いてもらうか
診断書は「精神の障害用」を使います。原則は精神科の医師ですが、高次脳機能障害は、脳神経外科・神経内科・リハビリテーション科などの医師でも、精神・神経の障害の診断や治療にあたっていれば書くことができます。検査の結果があれば記載してもらうと、状態が伝わりやすくなります。手足の麻痺があれば肢体の障害用、失語があれば言語機能の障害用の診断書も、別に必要です。
高次脳機能障害では、発症直後の病院と、現在通っている病院が、違うことが多くあります。当センターの事例には、認定日のころの病院に診断書を依頼したところ、当時の医師がすでにおらず、診断書を書けるかどうか分からないと言われた事例があります。ご家族から当時の状態を詳しく聞いて、参考資料として提出し、当時のカルテと照らし合わせて、診断書を作成してもらいました。
診断書の費用は、医療機関ごとに決められており、健康保険の対象外です。依頼する前に、料金と作成にかかる期間を確認してください。くわしくは、100の質問の「診断書はどの医療機関で書いてもらえばよいですか?」(Q19)をご覧ください。
障害者手帳との関係
障害年金と、障害者手帳は、別の制度です。手帳があることと、障害年金を受け取れることは別で、手帳を持っていなくても、障害年金の申請はできます。くわしくは、100の質問の「障害者手帳を持っていれば障害年金をもらえますか?」(Q7)と、コラム「高次脳機能障害と障害者手帳について」をご覧ください。
受け取れる金額の目安
障害基礎年金は定額です。令和8年度(2026年度)は、2級が年額847,300円、1級が年額1,059,125円です(昭和31年4月2日以後生まれの方の額です。子がいる場合は、加算があります)。障害厚生年金は、厚生年金に加入していた期間や、それまでの給与の額で変わります。1級・2級では、障害基礎年金に上乗せして支給されます。3級には最低保障額(令和8年度は年額635,500円・昭和31年4月2日以後生まれの方の額)があります。
年金額は年度ごとに改定されるため、最新の金額は、障害年金の金額のページでご確認ください。障害年金は、所得税や住民税がかからない年金です。
申請の流れと、結果が出るまでの期間
申請は、初診日と年金制度の確認、初診日の証明、診断書の依頼、申立書の作成、年金請求書の提出、という順で進みます。年金請求書を提出してから、決定の通知と年金証書が届くまでは、3か月程度が目安です(日本年金機構「障害年金ガイド」の目安です。障害の状態を詳しく確認する必要がある場合などは、通常より時間がかかることがあります)。受け取れることが決まると、年金証書が届き、1〜2か月後ごろに最初の振込が始まります。
くわしい手順は、100の質問の「障害年金の申請の流れを教えてください」(Q17)をご覧ください。
さかのぼって受け取れることがあります
障害認定日の時点で等級に当たっていたことが認められると、障害認定日の翌月分までさかのぼって年金を受け取れることがあります。ただし、さかのぼれるのは、時効の関係で、5年分までです。障害認定日のころに受診していて、診断書を書いてもらえることが必要です。当センターの事例には、高次脳機能障害で、2年さかのぼって約240万円を受け取った事例があります。
くわしくは、100の質問の「遡及請求(さかのぼって受給)とは何ですか?何年分までもらえますか?」(Q78)をご覧ください。
不支給になった場合と、受給後の更新
審査の結果、不支給になることもあります。不支給の通知が届いたときは、決定を知った日の翌日から3か月以内に、審査請求ができます(共済組合等が決定した場合は、不服申立ての窓口が異なります)。診断書や資料をそろえ直して、あらためて請求し直す方法もあります。どちらが適しているかは、不支給の理由によって変わります。
障害年金を受け取り始めたあとも、多くの場合、1〜5年ごとに、障害状態確認届(診断書)を提出して、障害の状態を確認されます。症状が改善したと判断されると、年金額が下がったり、支給が停止したりすることがあります。反対に、悪化したときは、等級を上げる請求(額改定請求)ができます。3級の障害厚生年金だけを受けている方(過去に2級以上になったことがない方)は、65歳の誕生日の前々日までに請求する必要があります。ただし原則として、年金を受ける権利が発生した日(受給権を取得した日)や、障害の程度の診査を受けた日から1年が過ぎてからでないと請求できません。
くわしくは、100の質問の「不支給の通知が届きました。どうすればよいですか?」(Q68)と、「障害年金の更新(障害状態確認届)とは何ですか?」(Q72)をご覧ください。
当センターに、ご相談ください
愛媛・松山障害年金相談センター(運営:社会保険労務士法人あいパートナーズ)は、四国全域の方を対象に、障害年金の申請をサポートしています。初回の相談は無料です。電話、メール、LINE、Zoomでのご相談に加えて、LINE・郵送・メールだけで申請を進めることもできます。一度も事務所にお越しにならずに、受給された方もいらっしゃいます。ご家族だけでのご相談も、ご本人の同意があれば承ります。
料金は、受給後報酬型です。受給できた場合に、受給後報酬をいただきます。受給できなかった場合は、受給後報酬はいただきません。ただし、事務手数料(2.2万円・税込)は、委託後1週間以内にお支払いいただき、結果にかかわらず返金できません。このほか、診断書の作成料(医療機関に支払う実費)は、受給できたかどうかにかかわらずご負担いただきます。医師への同行などをご依頼いただく場合は、日当がかかることがあります(100の質問Q90)。くわしくは、サポート料金のページをご覧ください。受給をお約束するものではありません。
電話:089-907-3797(平日9:00〜18:00)。LINEとメールは、24時間受け付けています。無料受給判定では、1分ほどの入力で、受給の可能性について社会保険労務士の判定を受けられます(結果は目安で、受給をお約束するものではありません)。
高次脳機能障害の受給事例
高次脳機能障害で障害年金を受給された方の事例を、一部ご紹介します。個人が特定されないよう、内容を調整しています。
- 通勤中にバイク転倒、高次脳機能障害になり退職。障碍者雇用も難しくなり障害厚生年金2級が決定した事例
- 高次脳機能障害で2年遡及約240万、年間約120万円受給できたケース
- 交通事故の後遺症により高次脳機能障害で障害厚生年金2級を取得、年間139万円を受給できたケース
- 被殻出血と器質性精神障害の併合認定で障害厚生年金2級を取得、年間約127万円を受給できたケース
- 手術の影響で左同名半盲と高次脳機能障害となり障害基礎年金2級を取得、年間約78万円を受給できたケース
- 薬品吸入による高次脳機能障害で障害厚生年金2級を取得、年間約162万円を受給できたケース
- 脳出血による後遺症で障害年金を請求|肢体不自由と後遺症精神障害を併せて申請した事例
事例は、受給をお約束するものではありません。同じ病名でも、結果は一人ひとりの状況で異なります。
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- 本日は高次脳機能障害の方と無料相談会で面談しました。
制度の内容は、2026年10月時点の日本年金機構「障害年金ガイド 令和8年度版」「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」、厚生労働省の通知・FAQ、全国健康保険協会の案内などの公開情報にもとづいています。法改正などで変わることがあります。
執筆・監修:社会保険労務士法人あいパートナーズ 代表 社会保険労務士 岩本浩一
交通事故での障害年金全般の注意点(損害賠償との調整など)は、交通事故で障害年金はもらえる?でも解説しています。
脳出血については、脳出血で障害年金はもらえる?でも解説しています。






















