結論:交通事故のけがや後遺症でも、障害年金を受け取れることがあります
交通事故が原因でも、障害年金の対象になります。障害年金は、障害の原因が病気かけがかを問いません。交通事故のけがや後遺症も対象です。事故のあとに残った障害によって、日常生活や仕事がどのくらい制限されているかで決まります。示談や裁判が終わっているかどうかは、申請できるかどうかの条件ではありません。ただし、ご本人がわざと事故を起こした場合は支給されず、故意の犯罪行為や重大な過失で事故を起こした場合は、年金の全部または一部が支給されないことがあります(国民年金法第69条・第70条など)。
交通事故の場合は、ほかの原因とちがって、次の3つに気をつける必要があります。1つめは、初診日が事故のあとに最初に受診した日になること。2つめは、加害者側の保険会社などから損害賠償を受けると、障害年金が一定の期間、支給停止になる場合があること。3つめは、自賠責保険の後遺障害等級と、障害年金の等級は別の制度で、一致しないことです。
この記事は、交通事故のけがや後遺症で障害年金を考えている方と、そのご家族のために、交通事故ならではの注意点を説明します。病名ごとのくわしい説明は、各病名の記事にまとめています。
交通事故の障害年金で、まず確認すること
障害年金を受け取るには、次の3つの条件が必要です。
- 初診日(その傷病について、初めて医師の診療を受けた日)に、国民年金か厚生年金に加入していたこと。
- 初診日の前日までの保険料の納付状況が要件を満たしていること(初診日が20歳前で、年金制度に加入していなかった期間にある場合は問われません)。
- 障害認定日(原則として初診日から1年6か月後)か、その後65歳の誕生日の前々日までに、障害の状態が等級に当たっていること。
交通事故では、事故の日に救急搬送された病院で受診するのが普通です。そのため、初診日は、事故のあとに最初に受診した日(多くは事故の当日)になります。事故のあとに別の病院へ転院しても、初診日は変わりません。なお、初診日は、医師または歯科医師の診療を受けた日です。事故のあと、病院に行かずに整骨院・接骨院だけに通っていた日は、初診日になりません。また、事故のあとに、うつ病やPTSDなど心の不調が出た場合、その初診日を事故のあとに最初に受診した日とみるか、心療内科などを初めて受診した日とみるかは、事故との因果関係によって変わります。
事故のときに会社員や公務員として厚生年金に加入していれば、1級・2級では障害基礎年金に障害厚生年金が上乗せされ、3級では障害厚生年金だけが支給されます。事故のときに自営業や学生、無職などで国民年金に加入していた場合や、20歳になる前で年金制度に加入していなかった場合は、障害基礎年金(1級・2級)の対象になります。20歳になる前でも、会社に勤めて厚生年金に加入していた場合は、障害厚生年金の対象です。
初診日や納付要件のくわしい説明は、100の質問の「初診日とは何ですか?」(Q13)と「障害年金はどんな人がもらえますか?」(Q2)をご覧ください。
事故から1年6か月たっていなくても、請求できる場合があります
障害年金の障害認定日は、原則として初診日から1年6か月後です。ただし、障害の種類によっては、1年6か月を待たずに認定日になる特例があります。交通事故でよくあるものは、次の2つです。
- 人工骨頭や人工関節を挿入置換したとき:挿入置換した日が障害認定日になります。ただし、挿入置換した日が初診日から1年6か月を過ぎている場合は、原則どおり、初診日から1年6か月を過ぎた日が障害認定日です(人工関節の記事は人工関節で障害年金はもらえる?をご覧ください)。
- 手足を切断・離断したとき:原則として、切断または離断をした日が障害認定日になります。ただし、その日が初診日から1年6か月を過ぎている場合は、初診日から1年6か月を過ぎた日が障害認定日です。
当センターの事例には、事故のあと、初診からすぐに人工関節を入れた方が、認定日請求で2年さかのぼって受け取れたものがあります(事例)。
損害賠償(示談)との関係:障害年金が支給停止になることがあります
交通事故の障害年金で、いちばん大切なのがこの点です。
障害年金と、加害者側から受ける損害賠償は、同じ事故による損害について、両方を全額受け取れるわけではありません。法律では、障害年金を受ける人が、加害者(第三者)から同じ事由について損害賠償を受けたときは、その価額の限度で、年金を支給しないことができるとされています(国民年金法第22条第2項、厚生年金保険法第40条第2項)。
実際には、賠償金のうち生活の補償にあたる部分の額をもとに月数を計算し、その月数のあいだ、障害年金が止まります。止まる期間は、平成27年10月1日以降に起きた事故では、事故が起きた月の翌月から数えて最長36か月です(厚生労働省通知「厚生年金保険法及び国民年金法に基づく給付と損害賠償額との調整の取扱いについて」平成27年9月30日)。それより前の事故は、以前の取扱いによります。障害年金を受け取る権利が、事故の翌月より後に発生した場合は、事故の翌月からその月までの月数が差し引かれるため、実際に止まる期間は、36か月より短くなることがあります。
賠償金のすべてが、計算の対象になるわけではありません。示談書などで逸失利益(事故がなければ得られたはずの収入)の額がはっきりしている場合は、その額から、実際に支払った医療費や葬祭費などを差し引いた額で計算します。逸失利益の額がはっきりしない場合は、賠償金の総額から慰謝料と実際に支払った費用を差し引くなどの方法で計算します。計算の結果、生活の補償にあたる額が出なければ、障害年金は止まりません。賠償金の内訳が分かる書類(示談書や賠償金の計算書など)が必要になるのは、このためです。
仕事中や通勤中の交通事故で、同じ原因で労災保険の年金(障害(補償)等年金)も受ける場合は、障害年金は全額支給され、労災の年金のほうが減額されます。
当センターの事例でも、次のようなものがあります。
- 交通事故の後遺症で高次脳機能障害になった30代の男性の事例です。事故の関係書類もすべて提出し、障害厚生年金2級(年額約139万円)が決まりました。損害賠償を受けたときは障害年金の給付が停止される場合があることも、事例ページに書かれています(事例)。
賠償金を受け取る前に支給された障害年金も、あとで賠償を受けると、調整の対象になります。すでに受け取った年金の返還を求められることがあります。一方で、示談のときに、障害年金の額を差し引いて賠償額が計算されていたことが書類で確認できる場合は、年金は止まらず、国が加害者に請求する扱いになります。示談の内容によって結果が変わるため、示談書にサインする前に、一度ご相談ください。
自賠責保険の後遺障害等級と、障害年金の等級は別です
交通事故では、自賠責保険から「後遺障害等級」(1〜14級)の認定を受けることがあります。これは、損害賠償の金額を決めるための制度で、障害年金の等級とは別の制度です。どちらかの等級が決まっても、もう一方の等級が同じになるとは限りません。
自賠責の後遺障害等級が低くても、障害年金の2級に当たることがあります。反対に、自賠責の等級が高くても、障害年金の等級には当たらないこともあります。障害年金の等級は、国民年金法施行令・厚生年金保険法施行令の別表で決まります。障害年金は、診断書と申立書にもとづいて審査されます。
第三者行為事故状況届など、交通事故で必要になる書類
交通事故が原因の障害年金を請求するときは、通常の書類(年金請求書、診断書、病歴・就労状況等申立書など)に加えて、次の書類を提出します(日本年金機構「障害厚生年金を受けられるとき」より)。
- 第三者行為事故状況届(所定の様式)
- 交通事故証明、または事故が確認できる書類(交通事故証明が取れない場合は、事故の内容が分かる新聞のコピーなど)
- 確認書(所定の様式)
- 扶養している方がいる場合は、扶養していたことが分かる書類
- 損害賠償金の算定書(すでに賠償額が決まっている場合。示談書など、受け取った額が分かるもの)
- 損害保険会社などへの照会に関する同意書(所定の様式)
交通事故証明書は、警察に届け出た事故について、自動車安全運転センターで交付を受けます。警察に届け出ていない事故は、交付を受けられません。また、事故から、人身事故は5年、物件事故は3年を過ぎると、原則として交付を受けられません。事故から年数がたっている場合は、事故が確認できるほかの書類を探すことになります。
当センターの事例では、事故当時に保険会社へ提出した診断書のコピーが見つかり、それを初診日の証明として申請できたものがあります。30年前の交通事故で骨盤を骨折し、その後、人工股関節の手術を受けた50代の男性の事例です(事例)。事故のときの書類は、捨てずに保管してください。
交通事故の後遺症で代表的な障害と、くわしい記事
交通事故のあとに障害年金の対象になる障害の、代表的なものには、次のようなものがあります。
- 頭部外傷による高次脳機能障害(記憶障害、注意障害、人格の変化など):高次脳機能障害で障害年金はもらえる?
- 股関節や膝関節の人工関節置換:人工関節で障害年金はもらえる?
- 脊髄損傷(麻痺):脊髄損傷の原因と症状をレベル別に解説 障害年金の受給条件とは?
- 手足の切断:下肢切断の原因・症状と生活への影響、障害年金2級で支援を受ける方法
- 骨折後の関節の動きの制限や痛み:粉砕骨折は障害年金の対象?後遺症が残った場合の認定基準を解説
- 事故のあとのうつ病やPTSDなど、精神の障害:うつ病で障害年金はもらえる?
等級は、障害の種類ごとの認定基準で決まります。診断書の様式も、障害の種類によって異なります。
診断書と申立書で気をつけること
診断書は、現在の主治医に書いてもらいます。交通事故の場合は、事故で受けた手術の内容、リハビリの経過、今も残る症状を、主治医に伝えて記載してもらうことが大切です。
病歴・就労状況等申立書は、事故から現在までの経過と、仕事や日常生活の状況を書く書類です。当センターの事例では、事故のあと復職したものの、記憶が定着せず仕事にならず退職したことや、痛みで仕事が元どおりにならないことを、申立書に具体的に書いています。
診断書の費用や依頼先については、100の質問の「診断書はどの医療機関で書いてもらえばよいですか?」(Q19)をご覧ください。
働いていても、受け取れますか
事故のあとに仕事へ復帰していても、障害年金を受け取れることがあります。審査では、仕事の種類や内容、勤務の日数や時間、職場から受けている配慮や援助などが確認されます。当センターの事例にも、事故のあと仕事に復帰したものの、職場の配慮を受けながら働いている方が、3級に認定されたものがあります。
くわしくは、100の質問の「働いていると障害年金はもらえませんか?」(Q53)をご覧ください。
さかのぼって受け取れることがあります
障害認定日の時点で等級に当たっていたことが認められると、障害認定日の翌月分までさかのぼって年金を受け取れることがあります。ただし、さかのぼれるのは、時効の関係で、5年分までです。障害認定日のころに受診していて、診断書を書いてもらえることが必要です。
障害認定日の時点で等級に当たっていなかった場合は、その後に症状が重くなったときに「事後重症」として請求できます。事後重症の請求は、65歳の誕生日の前々日までにする必要があり、年金は請求した月の翌月分から支給されます。さかのぼっては受け取れません。
くわしくは、100の質問の「遡及請求(さかのぼって受給)とは何ですか?何年分までもらえますか?」(Q78)をご覧ください。
受け取れる金額の目安
障害基礎年金は定額です。令和8年度(2026年度)は、2級が年額847,300円、1級が年額1,059,125円です(昭和31年4月2日以後生まれの方の額です。子がいる場合は、加算があります)。障害厚生年金は、厚生年金に加入していた期間や、それまでの給与の額で変わります。1級・2級では、障害基礎年金に上乗せして支給されます。3級には最低保障額(令和8年度は年額635,500円・昭和31年4月2日以後生まれの方の額)があります。
障害年金は、所得税や住民税がかからない年金です。年金額は年度ごとに改定されるため、最新の金額は、障害年金の金額のページでご確認ください。
申請の流れと、結果が出るまでの期間
申請は、初診日と年金制度の確認、初診日の証明、診断書の依頼、申立書の作成、年金請求書と第三者行為事故状況届の提出、という順で進みます。年金請求書を提出してから、決定の通知と年金証書が届くまでは、3か月程度が目安です(日本年金機構「障害年金ガイド」の目安です。事故関係の書類の確認が必要な場合などは、通常より時間がかかることがあります)。
くわしい手順は、100の質問の「障害年金の申請の流れを教えてください」(Q17)をご覧ください。
不支給になった場合と、受給後の更新
審査の結果、不支給になることもあります。不支給の通知が届いたときは、決定を知った日の翌日から3か月以内に、審査請求ができます(共済組合等が決定した場合は、不服申立ての窓口が異なります)。診断書や資料をそろえ直して、あらためて請求し直す方法もあります。
障害年金を受け取り始めたあとも、多くの場合、1〜5年ごとに、障害状態確認届(診断書)を提出して、障害の状態を確認されます。悪化したときは、等級を上げる請求(額改定請求)ができます。ただし原則として、受給権を取得した日か、前回の診査を受けた日から1年が過ぎてからでないと請求できません。3級の障害厚生年金だけを受けている方(過去に2級以上になったことがない方)は、65歳の誕生日の前々日までに請求する必要があります。
くわしくは、100の質問の「不支給の通知が届きました。どうすればよいですか?」(Q68)と、「障害年金の更新(障害状態確認届)とは何ですか?」(Q72)をご覧ください。
当センターに、ご相談ください
愛媛・松山障害年金相談センター(運営:社会保険労務士法人あいパートナーズ)は、四国全域の方を対象に、障害年金の申請をサポートしています。初回の相談は無料です。電話、メール、LINE、Zoomでのご相談に加えて、LINE・郵送・メールだけで申請を進めることもできます。入院中の方やご家族だけでのご相談も、ご本人の同意があれば承ります。一度も事務所にお越しにならずに、受給された方もいらっしゃいます。
料金は、受給後報酬型です。受給できた場合に、受給後報酬をいただきます。受給できなかった場合は、受給後報酬はいただきません。ただし、事務手数料(2.2万円・税込)は、委託後1週間以内にお支払いいただき、結果にかかわらず返金できません。このほか、診断書の作成料(医療機関に支払う実費)は、受給できたかどうかにかかわらずご負担いただきます。医師への同行などをご依頼いただく場合は、日当がかかることがあります(100の質問Q90)。くわしくは、サポート料金のページをご覧ください。受給をお約束するものではありません。
電話:089-907-3797(平日9:00〜18:00)。LINEとメールは、24時間受け付けています。無料受給判定では、1分ほどの入力で、受給の可能性について社会保険労務士の判定を受けられます(結果は目安で、受給をお約束するものではありません)。
交通事故が原因の受給事例
交通事故が原因で障害年金を受給された方の事例を、一部ご紹介します。個人が特定されないよう、内容を調整しています。
- 交通事故の後遺症により高次脳機能障害で障害厚生年金2級を取得、年間139万円を受給できたケース
- 交通事故による人工関節手術で障害厚生年金3級を取得、2年遡及約116万円、年間約58万円を受給できたケース
- 30年前の交通事故で骨盤骨折。事故が初診25年後に人工股関節置換をして障害厚生年金3級を受給した事例
- 交通事故により下肢障害、サポーターで膝を固定し仕事復帰後に遡及請求をして3級が認められた事例
事例は、受給をお約束するものではありません。同じ事故でも、結果は一人ひとりの状況で異なります。
制度の内容は、2026年10月時点の日本年金機構などの公開情報にもとづいています。法改正などで変わることがあります。
執筆・監修:社会保険労務士法人あいパートナーズ 代表 社会保険労務士 岩本浩一
手足の切断全般の注意点(切断した日が認定日になる条件など)は、手足切断で障害年金はもらえる?でも解説しています。






















