結論:労災を受けていても、障害年金を請求できます。ただし調整があります
仕事中や通勤中のけがや病気で労災保険の給付を受けている方も、障害年金を請求できます。労災保険と障害年金は、別々の制度です。同じ原因で両方を受けられる場合は、障害年金は全額支給され、労災保険の年金のほうが一定の率で減額されます。減額の率は、労災の給付の種類と、受ける障害年金の組み合わせで決まります(厚生労働省「労災保険給付と厚生年金の両方を受け取ることはできるのでしょうか」)。
ただし、例外があります。20歳前の病気やけがによる障害基礎年金は、労災の年金を受けている間、労災の年金の額の範囲で、障害年金のほうが支給停止になります(国民年金法第36条の2。厚生年金に加入していた間に初診日がある場合を除きます)。
この記事は、労災で障害が残った方と、そのご家族のために、労災と障害年金の関係、調整の考え方、請求のときの注意点を説明します。
労災の給付と障害年金は、どう違うか
労災保険は、仕事中の事故や病気(業務災害)と、通勤中の事故(通勤災害)で、けがや病気をした労働者に給付される保険です。障害が残ったときは、障害の程度に応じた給付(障害(補償)等年金、障害(補償)等一時金)があります。療養中は、休業(補償)等給付、長引く場合は傷病(補償)等年金があります。
障害年金は、年金制度(国民年金・厚生年金)にもとづく給付で、病気やけがの原因を問いません。労災でなくても、受けることができます。
労災の障害等級(1〜14級。1〜7級は年金、8〜14級は一時金)と、障害年金の等級(1〜3級、障害手当金)は、別々の基準で判定されます。労災で何級だから障害年金で何級、という対応はありません。
調整のしくみ:どちらが減るのか
同じ事由で、障害年金と労災保険の年金を両方受けられるときは、次のように調整されます。
- 障害年金(障害厚生年金・障害基礎年金):全額支給されます。
- 労災保険の年金(障害(補償)等年金、傷病(補償)等年金)と、休業(補償)等給付:一定の率をかけて、減額されます。
減額の率は、次のとおりです(厚生労働省Q&A)。
- 障害厚生年金と障害基礎年金の両方を受ける場合:障害(補償)等年金、傷病(補償)等年金、休業(補償)等給付のいずれも0.73
- 障害厚生年金だけを受ける場合(3級など):障害(補償)等年金は0.83、傷病(補償)等年金と休業(補償)等給付は0.88
- 障害基礎年金だけを受ける場合:いずれも0.88
調整後の労災の給付と障害年金の合計が、調整前の労災の給付の額より低くならないように考慮されています(同Q&A)。
労災保険の障害(補償)等一時金(障害等級8〜14級)は、減額されません。減額の対象は、労災の年金と休業(補償)等給付です(労働者災害補償保険法別表第一、厚生労働省Q&A)。一方、同じけがで労災の障害(補償)等給付を受ける権利がある場合は、厚生年金の障害手当金(一時金)は支給されません(厚生年金保険法第56条第3号)。
当センターの事例には、工場での仕事中の事故で腕を負傷し、労災の障害補償年金を受けていた50代の男性がいます。複合性局所疼痛症候群(CRPS)などで、障害厚生年金2級(配偶者・子の加算があり年額約180万円)が決まりました。労災の年金は、障害年金との調整により、73%の支給割合になりました(事例)。
例外:20歳前の傷病による障害基礎年金
20歳前に初診日がある障害基礎年金は、労災の年金(障害(補償)等年金など)を受けているとき、労災の年金の額の範囲で、障害年金のほうが支給停止になります(国民年金法第36条の2)。このとき、労災の年金は減額されません。
なお、20歳前でも、会社に勤めて厚生年金に加入していた間に初診日がある場合は、この例外には当たりません。障害厚生年金(2級以上なら障害基礎年金も)の対象になり、前の節のとおり、障害年金は全額支給され、労災の年金のほうが減額されます。
当センターの事例には、昭和49年に学校を卒業して就職した1週間目の仕事中に、右腕を切断した60代の男性がいます。旧法(昭和61年4月の改正前)が適用されるという判断になり、20歳前障害による障害基礎年金として請求して、2級が決まりました。しかし、労災の年金との調整により、受け取れる年金は0円でした(事例)。古い労災事故では、どの年金として扱われるかによって調整のしかたが変わり、決定まで受け取れる額がわからないことがあります。
年金請求書の「業務上」「第三者の行為」の欄
障害年金の請求書には、「傷病の原因は業務上ですか」「障害の原因は第三者の行為によりますか」という項目があります。業務上のけがや病気で、労災保険から給付を受けている、または受けられる場合は、その給付の種類を記入します。障害の原因が第三者の行為(交通事故の相手や、けがをさせた人など)による場合は、「第三者行為事故状況届」、事故を証明する書類、損害賠償の受領額がわかる書類(示談済みの場合)などが必要です(日本年金機構「障害厚生年金を受けられるとき」)。第三者から損害賠償を受けた場合、障害年金が一定期間支給停止になることがあるため、その確認に使う書類です。
この事例では、初診日と事故との関連性を診断書などで明確にし、第三者行為事故状況届と、それに伴う追加書類をそろえました。
パワハラが原因のうつ病で請求する場合、「第三者の行為」の欄は、障害の原因が第三者の行為によるかどうかという事実で答える欄です。労災の申請や裁判をしたかどうかで答えが決まるものではなく、「パワハラを受けた」という気持ちだけで書くものでもありません。判断に迷うときは、請求の前に年金事務所や社会保険労務士にご相談ください。関連するご相談は、Q&Aをご覧ください。
初診日と障害認定日
労災の事故でも、障害年金の初診日は、その事故のあと、最初に医師または歯科医師の診療を受けた日です。障害認定日は、原則として、初診日から1年6か月が過ぎた日です。ただし、それより前に、けがや病気が治った(症状が固定し、治療の効果が期待できない状態になった)場合は、その日が障害認定日になります(国民年金法第30条第1項、厚生年金保険法第47条第1項)。労災で「症状固定」とされた日があっても、その日が障害年金の障害認定日になるかどうかは、障害年金の基準で別に判断されます。手足の切断や人工関節のように、認定日の扱いが認定基準で定められているものもあります。
当センターのQ&Aには、仕事中の事故で左足に障害が残り、労災から休業補償を受けていた方からの相談があります(Q&A)。
手足の切断や人工関節など、1年6か月を待たずに認定日になる特例があります。くわしくは、手足切断で障害年金はもらえる?と、人工関節で障害年金はもらえる?をご覧ください。
初診日や納付要件のくわしい説明は、100の質問の「初診日とは何ですか?」(Q13)と「障害年金はどんな人がもらえますか?」(Q2)をご覧ください。
労災で多い障害と、くわしい記事
仕事中の事故や、仕事の負担が原因の障害には、次のようなものがあります。
- 手足の切断・指の切断:手足切断で障害年金はもらえる?
- 腰のヘルニアなど脊柱の障害:椎間板ヘルニアで障害年金はもらえる?
- 頭部のけがによる高次脳機能障害:高次脳機能障害で障害年金はもらえる?
- 関節の障害・人工関節:人工関節で障害年金はもらえる?
- 仕事が原因のうつ病:うつ病で障害年金はもらえる?
当センターの事例には、次のようなものもあります。
- 仕事中の事故で手が機械に巻き込まれ、指を切断した30代の男性。手首の機能がなく、利き手が使えない状態が診断書に反映され、障害厚生年金3級が決まり、3年さかのぼって受け取れました。労災年金との調整が入るため、さかのぼり分は約100万円の受給になりました(事例)。
- 長年大型トラックの運転をして、強い振動で腰椎椎間板ヘルニアが悪化した50代の男性。労災の休業補償や障害補償給付を受けながら療養していましたが、障害厚生年金3級(年額約61万円)と、さかのぼり分(一時金220万円)が決まりました(事例)。
診断書と申立書で気をつけること
診断書は、障害の種類に応じた様式で、現在の主治医に書いてもらいます。手足の障害は肢体の障害用、頭部のけがによる高次脳機能障害や、仕事が原因のうつ病は精神の障害用を使います。労災の診断書とは様式が違うため、障害年金用に、あらためて依頼する必要があります。診断書の費用は、医療機関ごとに決められており、健康保険の対象外です。
病歴・就労状況等申立書には、事故や仕事の状況から、現在の生活の状態までを、具体的に書きます。労災の手続きの書類と、内容がずれないように注意してください。
くわしくは、100の質問の「診断書はどの医療機関で書いてもらえばよいですか?」(Q19)をご覧ください。
働いていても、受け取れますか
働いていることだけを理由に、対象外になるわけではありません。障害の種類によって、見られるポイントが違います。くわしくは、100の質問の「働いていると障害年金はもらえませんか?」(Q53)をご覧ください。
さかのぼって受け取れることがあります
障害認定日の時点で等級に当たっていたことが認められると、障害認定日の翌月分までさかのぼって年金を受け取れることがあります。ただし、さかのぼれるのは、時効の関係で、5年分までです。さかのぼって障害年金が決まった場合も、障害年金は全額支給されます。ただし、同じ期間の労災の年金や休業(補償)等給付は、あとから調整される場合があり、手元に残る金額が、さかのぼり分の障害年金より少なくなることがあります。
障害認定日に等級に当たっていなかった場合は、その後に症状が重くなったときに「事後重症」として請求できます。事後重症の請求は、65歳の誕生日の前々日までにする必要があり、年金は請求した月の翌月分から支給されます。さかのぼっては受け取れません。
くわしくは、100の質問の「遡及請求(さかのぼって受給)とは何ですか?何年分までもらえますか?」(Q78)をご覧ください。
受け取れる金額の目安
障害基礎年金は定額です。令和8年度(2026年度)は、2級が年額847,300円、1級が年額1,059,125円です(昭和31年4月2日以後生まれの方の額です。子がいる場合は、加算があります)。障害厚生年金は、厚生年金に加入していた期間や、それまでの給与の額で変わります。1級・2級では、障害基礎年金に上乗せして支給されます。3級には最低保障額(令和8年度は年額635,500円・昭和31年4月2日以後生まれの方の額)があります。
障害年金は、所得税や住民税がかからない年金です。年金額は年度ごとに改定されるため、最新の金額は、障害年金の金額のページでご確認ください。
申請の流れと、結果が出るまでの期間
申請は、初診日と年金制度の確認、初診日の証明、診断書の依頼、申立書の作成、年金請求書(第三者の行為が原因の場合は、第三者行為事故状況届など)の提出、という順で進みます。年金請求書を提出してから、決定の通知と年金証書が届くまでは、3か月程度が目安です(日本年金機構「障害年金ガイド」の目安です。事故関係の書類の確認が必要な場合などは、通常より時間がかかることがあります)。
くわしい手順は、100の質問の「障害年金の申請の流れを教えてください」(Q17)をご覧ください。
不支給になった場合と、受給後の更新
審査の結果、不支給になることもあります。不支給の通知が届いたときは、決定を知った日の翌日から3か月以内に、審査請求ができます(共済組合等が決定した場合は、不服申立ての窓口が異なります)。診断書や資料をそろえ直して、あらためて請求し直す方法もあります。
障害年金を受け取り始めたあとも、多くの場合、1〜5年ごとに、障害状態確認届(診断書)を提出して、障害の状態を確認されます。悪化したときは、等級を上げる請求(額改定請求)ができます。ただし原則として、受給権を取得した日か、前回の診査を受けた日から1年が過ぎてからでないと請求できません。3級の障害厚生年金だけを受けている方(過去に2級以上になったことがない方)は、65歳の誕生日の前々日までに請求する必要があります。
くわしくは、100の質問の「不支給の通知が届きました。どうすればよいですか?」(Q68)と、「障害年金の更新(障害状態確認届)とは何ですか?」(Q72)をご覧ください。
当センターに、ご相談ください
愛媛・松山障害年金相談センター(運営:社会保険労務士法人あいパートナーズ)は、四国全域の方を対象に、障害年金の申請をサポートしています。初回の相談は無料です。電話、メール、LINE、Zoomでのご相談に加えて、LINE・郵送・メールだけで申請を進めることもできます。入院中の方やご家族だけでのご相談も、ご本人の同意があれば承ります。一度も事務所にお越しにならずに、受給された方もいらっしゃいます。
料金は、受給後報酬型です。受給できた場合に、受給後報酬をいただきます。受給できなかった場合は、受給後報酬はいただきません。ただし、事務手数料(2.2万円・税込)は、委託後1週間以内にお支払いいただき、結果にかかわらず返金できません。くわしくは、サポート料金のページをご覧ください。受給をお約束するものではありません。
電話:089-907-3797(平日9:00〜18:00)。LINEとメールは、24時間受け付けています。無料受給判定で、受け取れる可能性を、1分で確認することもできます。
労災が原因の受給事例
労災が原因で障害年金を受給された方の事例を、一部ご紹介します。個人が特定されないよう、内容を調整しています。
- 労災事故により片腕損傷し労災年金受給中。就労が困難になり障害年金の手続きにより2級が決定した事例
- 労災による右腕切断(旧法適用)により障害基礎年金2級を取得、しかし労災との調整により支給がなくなったケース
- 事故により指欠損。障害年金3級が決定した事例
- トラック乗務中の振動負荷で腰椎椎間板ヘルニアが悪化し障害厚生年金3級を受給された事例
事例は、受給をお約束するものではありません。同じ労災でも、結果は一人ひとりの状況で異なります。
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制度の内容は、2026年10月時点の日本年金機構などの公開情報にもとづいています。法改正などで変わることがあります。
執筆・監修:社会保険労務士法人あいパートナーズ 代表 社会保険労務士 岩本浩一






















