結論:社会的治癒が認められると、再発後の受診日が初診日として扱われます。ただし、認められるとは限らず、主張したほうが有利になるとも限りません
障害年金は、その傷病について初めて医師の診療を受けた日(初診日)に、どの年金制度に加入していたか、保険料を納めていたかで、受け取れるかどうかも、受け取る年金の種類も変わります。
過去にいったん受診したものの、通院をやめて長い間ふつうに暮らし、その後に同じ病気が再び悪くなって受診した、という方がいます。
このとき、国の通知などで示されてきた「社会的治癒」という考え方が認められれば、最初の受診ではなく、再発後の受診日が初診日として扱われます。初診日が変わると、加入していた制度や、保険料の納付の条件(納付要件。納めた期間と免除された期間をあわせて数えます)の見方も変わります。
ただし、社会的治癒は、法律や障害認定基準に書かれた制度ではありません。認められるかどうかは、個別の事情で判断され、認められないこともあります。また、初診日が後ろの日になることが、いつも有利になるわけではありません。
この記事では、次の3点を説明します。
- 社会的治癒の考え方
- 審査会が認めなかった例と、当センターの事例
- 準備する書類
初診日の原則と、社会的治癒とは
障害認定基準は、初診日を「障害の原因となった傷病につき、初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日」としています(国民年金・厚生年金保険障害認定基準 第1 一般的事項 3)。診断名がついた日とは限りません。
また、前の病気やけががなかったら、あとの病気は起こらなかったであろう、と認められる関係(相当因果関係)がある場合は、前の病気とあわせて「傷病」として扱われます。この場合は、最初の受診日が初診日になるのが原則です(同 第1 2)。
社会的治癒は、この原則の例外にあたる考え方です。医学的には完全に治っていなくても、医療を必要としない状態で社会生活を送った期間があったと認められる場合に、その前後を別の傷病のように扱い、再発後の受診日を初診日とします。
法律(国民年金法・厚生年金保険法)、その施行令、障害認定基準の本文には、「社会的治癒」という言葉は出てきません(2026年10月に当センターが確認)。この考え方のもとになった通知として、国会の答弁書(平成18年2月24日、答弁書第21号)は、次の2つを挙げています。
- 昭和42年5月2日付けの社会保険庁の通知「国民年金障害認定事務に関する疑義回答について」:ハンセン病の患者が、治ゆまたは軽快して社会復帰したあとに再発した場合に、社会的治癒を認め、再発の初診日を初診日とする。
- 昭和43年2月23日付けの同様の通知:梅毒の治療後に長く通常の社会生活を営んでいた進行麻痺の場合に、社会的治癒を認める。この通知は、社会的治ゆを「医療を行なう必要がなくなつて社会復帰している状態」としています。
どちらも特定の傷病についての通知です。
より新しい国の説明として、厚生労働省の社会保障審議会年金部会(2024年7月30日)の資料「障害年金制度の見直しについて」に、注記があります。社会的治癒は「医療を行う必要がなくなって、社会復帰している状態」で、その後に発症した傷病は過去の傷病とは別のものとして扱われる、という趣旨の注記です。この資料にも、要件や期間の定めは書かれていません。
ほかの傷病に社会的治癒をどう当てはめるかは、日本年金機構が審査の中で個別に判断します。日本年金機構が、社会的治癒を判断する基準を文書で公表しているかどうかは、当センターでは確認できていません。
どんな場合に認められるのか:審査会の考え方
実際の判断の手がかりになるのは、社会保険審査会(厚生労働省)の裁決です。審査会は、年金の決定に不服があって社会保険審査官(地方厚生局)に審査請求をしたあと、その決定にも不服がある方の再審査請求を扱う機関です。
令和元年(厚)第1492号(令和3年8月31日)の裁決は、社会的治癒があったと認め得る状態を、「相当の期間にわたって症状がなく医療(予防的医療を除く。)を行う必要がなくなり、通常の勤務に服していた」と認められる場合としています。
令和4年(厚)第591号(令和5年11月30日)の裁決は、次の2つがそろったときに、治癒と同様とみなして、その後に新たな傷病を発病したものとして扱う、という考え方を示しています。
- 医学的には治癒していなくても、臨床的に症状がなくなったか、悪化のおそれのない状態に固定して、医療(予防的医療を除く。)を行う必要がないと判断される状態が、相当期間続いていること
- その間、通常の労務に服するなど、健常者に準ずる社会復帰ができていたこと
整理すると、見られている点は次の4つです。
- 症状がなくなったか、悪化のおそれのない状態に固定していて、医療を必要としない状態になっていたか(予防的な医療は除かれます。ゆるやかに進む病気では、この点が満たされないとされた裁決があります(令和5年(厚)第201号、令和4年(厚)第591号))
- 通常の勤務や社会生活ができていたか
- その状態が相当の期間続いたか
- 通院をやめたのが自己判断ではなく、医師が受診は不要と判断したことを示す資料があるか(令和4年(厚)第591号と令和5年(厚)第201号の裁決が、認めない理由に挙げた点です)
期間の目安は、確認できた通知・答弁書・裁決のいずれにも、年数で示されていません。「相当長い」「相当の期間」という書き方にとどまります。
インターネット上では「5年」という数字を見かけることがありますが、当センターが確認した公的な資料には、その根拠は見当たりませんでした。令和5年(厚)第201号(令和6年4月30日)の裁決では、5年6か月の期間を主張した事案でも、社会的治癒は認められていません。年数だけで決まるものではないと考えるのが安全です。
認められなかった裁決の例
当センターが厚生労働省の公開資料で確認できた、障害年金の請求で社会的治癒が争点になった審査会の裁決4件は、いずれも再審査請求が棄却されています(棄却とは、請求の中身を検討したうえで、認めないという結論です)。
公開されている裁決の一部にすぎず、認められる割合を示すものではありません。ただ、どこが見られているかの参考になります。
反復性うつ病(令和元年(厚)第1492号):復職後に約3年余り、通常勤務をしていたと主張した事案です。審査会は、その期間も通院して経過観察を受け、投薬が続き、投薬の調整もされていたことがうかがわれるとして、社会的治癒を認めるのは困難としました。
この裁決では、請求した方が別の事件で(健康保険の)傷病手当金について社会的治癒を認められていたことにも触れています。審査会は、障害年金とは別の制度なので、その判断に拘束されないとしています。
両側感音難聴(令和元年(厚)第592号、令和3年1月29日):治癒することのない疾病で、聴覚の障害は続いていたと考えるのが相当とされました。そのため、受診せずに就労や日常生活に支障なく暮らした期間があっても、社会的治癒は認めにくいとされました。
網膜色素変性(令和4年(厚)第591号):視力や視野に変化がなかったとして通院をやめ、受診しなかった期間について社会的治癒を主張した事案です。
審査会は、次の点などから、社会的治癒を認めませんでした。
- 通院をやめたのが、医師が受診の必要がないと判断したためであると認める資料はなく、本人の判断で通院を中止したと認められること
- 治癒することなくゆるやかに進む傷病で、その後実際に悪化していたこと
それより前の経過観察の期間も社会的治癒にあたるという追加の主張もありました。これについて、審査会は、社会的治癒の認定は個々の疾病の特性や臨床経過に応じて判断すべきであるとしました。そして、この傷病は悪化する可能性が常にあること、治療法のない病気でも、医師が病状の悪化を診ることができれば、悪化を少しでも遅らせる対症療法(病気の原因を取り除くのではなく、症状に対して行う治療)を行えることから、医療を行う必要がなかったとはいえないとしました。
黄斑ジストロフィー(令和5年(厚)第201号):5年6か月の間、受診せずに就労し、マラソン大会で好成績を残していたとの主張でしたが、ゆるやかに進む性質の疾病であることなども考慮され、認められませんでした。
精神の障害や、再発をくり返す傷病の場合
障害認定基準は、精神の障害の認定で、統合失調症について、次のように定めています。罹病後数年ないし十数年の経過中に症状の好転を見ることもあり、発病時からの療養と症状の経過を十分に考慮する、という定めです(第3 第1章 第8節 精神の障害)。
気分(感情)障害については、「本来、症状の著明な時期と症状の消失する時期を繰り返すもの」であり、現在の症状だけで認定することは不十分で、症状の経過とそれによる日常生活の状態を十分に考慮するとしています(第3 第1章 第8節 精神の障害)。
この定めは、等級の認定についてのものです。ただし、先ほどの反復性うつ病の裁決では、審査会が、この性質も含めて社会的治癒を判断しています。
法令や通知に、精神の障害だから社会的治癒を認めない、という定めは確認できていません。
同時に、症状がよくなったり悪くなったりをくり返す傷病では、症状が落ち着いて見える時期があっても、通院や投薬が続いていれば、「医療を行う必要がなくなった」とは見られにくい場合があります。反復性うつ病の裁決は、その例です。予防的な医療は除かれますが(何が予防的な医療に当たるかの基準は、当センターでは確認できていません)、投薬が続き、調整もされていたことがうかがわれる点が、判断の理由に挙げられています。
当センターの事例ページ(次の「当センターの事例」の1つめ)では、「一見すると生活が成り立っていた期間があっても、障害特性の継続性が重視されることで、社会的治癒が否定されるケースもあります。」と整理しています。
認められると、何が変わるのか
社会的治癒が認められて初診日が後ろの日になると、次の点が、新しい初診日で見直されます。
- どの年金制度の加入期間に初診日があるか:初診日に厚生年金に加入していれば障害厚生年金(1級から3級)、国民年金の加入期間なら障害基礎年金(1級・2級)が対象になります。3級があるのは障害厚生年金だけです。初診日が20歳前で厚生年金に未加入の時期の場合や、60歳以上65歳未満で日本に住んでいる期間(老齢基礎年金を繰上げ受給している(65歳より早く受け取り始めた)方を除く)の場合も、障害基礎年金の対象です(国民年金法第30条第1項第2号、同法附則第9条の2の3。日本年金機構「障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額」「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」)。くわしくは、障害年金の種類(障害基礎年金・障害厚生年金・障害手当金)をご覧ください。
- 保険料の納付要件:初診日の前日で、初診日がある月の前々月までの被保険者期間のうち、納付済みと免除をあわせた期間が3分の2以上あることが原則です。初診日が令和18年3月末日までで、初診日に65歳未満であれば、前々月までの直近1年間に未納がなければよい、という特例があります。初診日が20歳前で、そのとき厚生年金に加入していなかった場合は、納付要件は問われません(日本年金機構の同ページ)。
- 障害認定日(障害の程度を判断する基準になる日):初診日から1年6か月が過ぎた日が原則です(障害認定基準 第1 4)。初診日が変わると、障害認定日も変わり、さかのぼって受け取れる範囲にも影響します。
初診日が動くことは、有利に働くことも、不利に働くこともあります。
たとえば、最初の受診のときに納付要件を満たしていなかった方が、再発後の初診日では満たしている場合があります。
反対に、最初の受診が厚生年金に加入していた期間で、再発後は国民年金の期間だった場合は、障害厚生年金から障害基礎年金に変わります。3級と障害手当金(一度だけ受け取るお金)の対象にならなくなるほか、1級・2級でも障害厚生年金の部分の年金がなくなります。
20歳前で厚生年金に加入していなかった時期の受診が最初の受診だった場合は、納付要件が問われない代わりに、20歳前障害の決まりがかかわります。たとえば、本人の所得による支給制限があります(国民年金法第30条の4・第36条の3。くわしくは、20歳前に初診日がある障害年金(20歳前障害)をご覧ください)。
どちらの初診日で請求するのがよいかは、ご自身の加入歴と納付状況、病状によって違います。社会的治癒を主張する前に、動かさない場合と動かす場合の両方で、請求できるかを確認しておくことが大切です。
社会的治癒を主張するときに必要な証明
社会的治癒を主張するときは、請求する側が、受診しなかった期間の状況を書類で示しておくことが大切です。確認しておきたいのは、次の点です。
- 過去の受診歴をすべて把握する:いつ、どこで、何のために受診し、いつ通院をやめたか、そのとき医師はどう言っていたかを整理します。受診歴は、初診日を証明するための、医療機関が書く書類(受診状況等証明書)や、診療録(カルテ)から確認されます。後で紹介する事例16955は、受診状況等証明書を取ってはじめて、高校生のときの受診が分かった事例です。受診歴を省いて請求しても、確認される場合があると考えてください。
- 新しい初診日の証明:再発後に最初に受診した医療機関に、受診状況等証明書を書いてもらいます。くわしくは、受診状況等証明書とは:初診日の証明のしかた・取れないときの対処をご覧ください。
- 受診しなかった期間の説明:病歴・就労状況等申立書では、病院にかかっていない期間も空けずに書きます。「受診していない」を選び、受診しなかった理由と、その間の症状、日常生活や仕事の様子を書きます(くわしくは、病歴・就労状況等申立書とは:書き方・書く内容・つまずきやすい点)。
- 働いていた期間を示す資料:審査会は「通常の勤務に服していたか」を見ています。勤務先の記録など、働いていた期間が分かる資料を、手がかりとして使うことが考えられます(日本年金機構が資料の種類を定めた公開の基準は、当センターでは確認できていません)。
申立書に書く内容は、診療録や診断書と食い違わないようにします。
また、通院や投薬を「再発予防のため」と説明しても、それだけで予防的な医療と見てもらえるとは限りません。反復性うつ病の裁決では、申立書が月1回程度の通院と「再発を防止するための維持的投薬」を書いたうえで社会的治癒を主張しました。しかし、審査会は、その期間も通院と投薬が続き、投薬の調整もされていたことがうかがわれるとして、認めませんでした。
当センターの事例
- 30代の男性が、注意欠如多動症と双極性感情障害で請求しました。当初は、就職後の心療内科の受診を初診日として、障害厚生年金で請求を進めていました。ところが、受診状況等証明書を確認すると、高校1年生のときに、いじめをきっかけに心療内科を2回受診していたことが分かりました。通院は2回だけで、転校後は通学も生活も問題なく、その後は長期間受診がなかったため、当センターは社会的治癒が認められる可能性があると考えました。しかし審査の中で、社会的治癒は認められず、高校のときの受診が初診と判断される可能性が高いとして、書類が返されました。初診日が高校のときになり、その時点では厚生年金に加入していなかったため、障害基礎年金として請求をやり直し、障害基礎年金2級が決まりました(事例)。
- 50代の女性が、統合失調感情障害で請求しました。初診と考えられる医療機関は閉院していて、受診状況等証明書を取れない状況でした。初診のあと一定期間通院して症状が落ち着き、その後は長期間にわたり、結婚・出産・子育てや就労ができる状態が続き、そのあとで再び悪化していました。当センターは社会的治癒が成立する可能性を前提に検討し、2番目に受診した医療機関を初診として請求しました。申立書には、症状の波、日常生活の具体的な困難、家族の支援状況を書きました。障害基礎年金2級が決まりました(事例)。
事例16955は、社会的治癒が認められず、初診日が高校のときとされた例です。事例18011は、2番目の医療機関を初診とする請求のまま、支給が決まった例です。審査で社会的治癒がどう判断されたかは、事例ページからは分かりません。事例は、受給をお約束するものではありません。
請求の流れ
社会的治癒がかかわる請求では、通常の請求の流れの前に、「初診日をどこに置くか」を決める作業が加わります。
- 1つめ:これまでの受診歴を、いつ・どこで・何のために・いつまで通院したかまで整理します。
- 2つめ:加入していた年金制度と納付状況を確認します(動かさない場合と、動かす場合の両方)。
- 3つめ:受診状況等証明書を取り、診療録などで、受診しなかった期間の状況を確認します。
- 4つめ:診断書を依頼し、病歴・就労状況等申立書を作成して、年金請求書を提出します。
通常の流れは、障害年金の請求の流れをご覧ください。初診日の考え方の基本は、100の質問の「初診日とは何ですか?」(Q13)にあります。
注意点
- 社会的治癒は、審査で判断されるものです。ご自身やご家族が「長い間病院に行っていなかったから大丈夫」と考えていても、認められるとは限りません。
- 社会的治癒を主張すると、かえって不利になる場合があります。主張する前に、初診日が動いたときの加入制度と納付要件を確認してください。
- 初診日は、事実に沿って申し立てます。受診歴を省いたり、通院していた期間を書かなかったりしても、診療録や受診状況等証明書から確認される場合があります。
- 傷病手当金など、ほかの制度で社会的治癒が認められても、障害年金でも認められるとは限りません(令和元年(厚)第1492号の裁決)。
- 病名ごとの考え方は、うつ病で障害年金はもらえる?、統合失調症で障害年金はもらえる?、注意欠陥多動障害(ADHD)で障害年金はもらえる?もご覧ください。
当センターに、ご相談ください
愛媛・松山障害年金相談センター(運営:社会保険労務士法人あいパートナーズ)は、四国全域の方を対象に、障害年金の申請をサポートしています。初回の相談は無料です。
電話、メール、LINE、Zoomでのご相談に加えて、LINE・郵送・メールだけで申請を進めることもできます。過去の受診歴の整理や、初診日をどこに置くかのご相談もお受けしています。
料金は、受給後報酬型です。受給できた場合に、受給後報酬をいただきます。受給できなかった場合は、受給後報酬はいただきません。ただし、事務手数料(2.2万円・税込)は、委託後1週間以内にお支払いいただき、結果にかかわらず返金できません。診断書の作成料は実費です。くわしくは、サポート料金のページをご覧ください。受給をお約束するものではありません。
ただし、65歳以上の方、生活保護を受けている方のご相談はお受けしておりません。65歳以上の方で、老齢年金を受け取っておらず、障害年金の受給条件に当てはまる場合には、お受けすることもあります。くわしくは、65歳以上の方の障害年金:当センターでお手伝いできないこと、ご自身で確認していただきたいこと、生活保護を受けている方は障害年金をもらえる?受け取れる場合の注意点と、当センターでお手伝いできないことをご覧ください。
電話:089-907-3797(平日9:00〜18:00)。LINEとメールは、24時間受け付けています。無料受給判定で、受け取れる可能性を、1分で確認することもできます。
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制度の内容は、2026年10月時点の日本年金機構などの公開情報にもとづいています。法改正などで変わることがあります。
執筆・監修:社会保険労務士法人あいパートナーズ 代表 社会保険労務士 岩本浩一






















